外科系からの転科が多く、手術以外にも、ペイン外来・在宅・緩和ケアなど活躍の場が広い

専門医を目指そう

麻酔という仕事を介して、比較的簡単な虫垂炎の手術からベテランの外科医が執刀する心臓や肺、肝臓などの複雑な手術まで、あるいは内視鏡を使う手術、開腹手術のほか、眼科、耳鼻科、泌尿器科、脳外科、婦人科といった各診療科のほとんどを担当する麻酔科医(大学病院や総合病院勤務の場合)。

近年は、治療の幅を広げたい、あるいはこれまでの専門知識を活かしたいと考える外科医(整形・心臓血管・脳神経)や、産科、救急・ICUの医師が転科を希望するケースが増えてきています。

年齢が若い間は手術室や救急医療を中心に働き、体力的な負担が気になり始める40〜50歳代はペイン外来・ペインクリニック、在宅、緩和ケアなど、ご自身の体力と仕事量の関係、人生設計などによって活躍の場を選びやすいのも麻酔科の特徴です。

ただし、一部の医療機関では麻酔科医が一段低く見られるなど麻酔科医の待遇に問題があるケースも見受けられます。例えば、手術が円滑に運べすれば外科医だけが評価され、問題が生じれば麻酔科医が矢面に立たされる、手術のスケジュールは外科医の都合のみで決定される…などです。

したがって、医療機関を選ぶ際には、麻酔科医がチーム医療の一員として、術前のカンファレンス、患者への麻酔計画の説明、術後ケアに至るまで、通常の業務として意見が反映されるシステムが構築されているかを確認しておく必要があります。

転科後の麻酔科専門医の取得までを視野に入れている場合、研修施設の認定を受けている医療機関が少ない(症例数や指導医などのハードルが高いため)ので、希望の医療機関に入るのは大変かもしれません。しかし、専門医の取得ができない医療機関よりもスタッフが充実しており、また、麻酔機器・関連機器も新しいタイプを揃えているところが多いので、努力する価値は十分にあります。

麻酔科医の仕事:手術が快適に効率よく、安全に行えるように最善を尽くす

注文の多い外科医も少なくない

麻酔科医は手術の際、患者が痛みを感じないように麻酔を施すだけでなく、呼吸や循環の管理を行い、手術後は安定を図ります。そのためにも気道、心臓、呼吸器、中枢神経、消化器、肝臓、腎臓、血液、内分泌、代謝など、幅広い医学的な知識を理解したうえで、患者の状態に合った麻酔のプランを立てます。

そして、気道に問題が生じた場合には代替手段を準備して気道の確保を行ったり、心臓に問題があれば、その病態生理を把握したうえで循環動態を管理する、またそれに必要なモニタを選択し、手術中の患者の全身状態の変化を監視します。

具体的には、手術を受ける患者が喘息を患っているなら、喘息発作を助長するような薬剤の使用は避け、気管支拡張作用のある薬剤の投与や処置を行います。また、肝機能が低下しているなら、肝代謝を受けて排泄される薬剤は作用が延長するので少量の使用とします。陣機能が低下している場合は、腎保護作用ののある薬剤の選択を優先します。

これらの一つ一つは小さいことでも、積み重なると、患者に対して非常に大きな影響を及ぼすことになるので、ここの問題をおろそかにせず管理することが麻酔科医には求められます。

また、手術が円滑に進む環境を提供するということも麻酔科医の仕事です。つまり、手術を行う外科医が仕事をしやすい環境を作ることにも積極的に関与しています。例えば、腹部の手術を行う際には、筋弛緩薬を投与することがあります。筋弛緩薬は主に全身麻酔の導入時に使用されますが、開腹したときにも使われます。これは開腹時に腹壁の緊張で内臓が押し出されると、手術がしづらくなること、まお腹を閉じるときにも腹壁が緊張していると縫合しづらくなるからです。これなどは外科医の手術操作を容易にするために行う麻酔科医の仕事です。

さらに、血管外科の手術でも、血管を吻合した直後に吻合部に過剰な血圧がかかると出血しかねないので、止血が確認されるまで、ある程度血圧の上昇を抑えておくことも麻酔科医の仕事です。その他、肺や心臓の手術で肺の動きが、手術操作に支障をきたす場合には、手術しやすいように人工呼吸器を一時的に停止させ、手術操作に合わせて手動換気を行い、操作が完了したところで人工呼吸器を再開させるということもします。